読書ログ:2024年 年間

2025.03.06 コラム, 読書ログ
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はじめに

読書ログシリーズは、私の1年間の書籍購入リストの中から、数冊ピックアップしてご紹介するシリーズです。

今回は2024年分なのですが、2024年は東京大学EMPに通学していたため、受講期間半年プラス前後1月は、東大EMPの課題図書(約90冊程度?)と向き合ってきた期間でした。

そして、その課題リストは非公開が義務付けられていますので、それを除くと約3‐4ヶ月くらいしかなかった特殊な期間であったことをあらかじめご了承ください。

東京大学EMPとはなんぞや?受講してどうだったのか?等、そちらが気になられた方は個別にご連絡ください。

たくさんの刺激を受けた特殊な1年間の中だったのですが、今回も5冊だけピックアップしてみました。

例年の読書ログに比べると、内容がヘビーかもしれません。

とはいえ、自分の興味に嘘をつくわけにもいかないので、今はそういうモードなのだということで、決して滑らかには読めないかもしれませんが、予めご了承頂ければ幸いです。

  1. 世界と比べてわかる 日本の貧困のリアル
  2. タングル
  3. 東大教授(新潮新書)
  4. スマホより読書 本屋を守れ (PHP文庫)
  5. 新 基礎情報学 ―機械をこえる生命

キーワードは、貧困、量子コンピューター、東大、読書文化、ハラリと情報学 です。

では、以下、本題へ。

 
 

2024年 年間 書籍一覧

合計153冊

(スマートフォンだと一見分かりづらいのですが今回もスクロール表示になっています)

– 金より価値ある時間の使い方 (角川文庫) / アーノルド・ベネット
– JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則 / ニック・マジューリ
– SKILL 一流の外科医が実践する修練の法則 / クリストファー・S・アーマッド
– 2050年の世界 見えない未来の考え方 / ヘイミシュ・マクレイ
– 言語の力 「思考・価値観・感情」なぜ新しい言語を持つと世界が変わるのか? / ビオリカ・マリアン
– 「人生が充実する」時間のつかい方 UCLAのMBA教授が教える“いつも時間に追われる自分”をやめるメソッド / キャシー・ホームズ
– 作家の贅沢すぎる時間 そこで出逢った店々と人々 大人の男の遊び方 (双葉文庫) / 伊集院 静
– 傷つきやすいアメリカの大学生たち: 大学と若者をダメにする「善意」と「誤った信念」の正体 / グレッグ・ルキアノフ、ジョナサン・ハイト
– 戦略ごっこ―マーケティング以前の問題 / 芹澤 連
– 呪術廻戦 25 (ジャンプコミックスDIGITAL) / 芥見 下々
– トップアスリートのトレーニングを自宅で! ファントレ / 鈴木 岳
– 経営読書記録 表 / 楠木 建
– お金のむこうに人がいる――元ゴールドマン・サックス金利トレーダーが書いた 予備知識のいらない経済新入門 / 田内 学
– 最強の身体能力 プロが実践する脱力スキルの鍛え方 / 中野 崇
– 相談する力――一人の限界を超えるビジネススキル (海士の風) / 山中 哲男
– 進化思考[増補改訂版]――生き残るコンセプトをつくる「変異と選択」 / 太刀川 英輔
– キングダム 67 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL) / 原 泰久
– EASY FIGHT (幻冬舎単行本) / 堀口 恭司
– 死ぬまで歩くにはスクワットだけすればいい (幻冬舎単行本) / 小林 弘幸
– 万物の黎明~人類史を根本からくつがえす~ / デヴィッド・グレーバー 、デヴィッド・ウェングロウ
– SNS暴力 なぜ人は匿名の刃をふるうのか / 毎日新聞取材班
– 東大教授が語り合う 10の未来予測 / 暦本 純一、 加藤 真平、 川原 圭博、 中須賀 真一、 新藏 礼子、 合田 圭介、 黒田 忠広、 江崎 浩、 松尾 豊、 富田 泰輔、 戸谷 友則
– 世界の取扱説明書 理解する 予測する 行動する 保護する / ジャック・アタリ
– 負けへんで! 東証一部上場企業社長vs地検特捜部 / 山岸 忍
– お金という人生の呪縛について / 松本 大
– コンサルが「次に目指す」PEファンドの世界 / 小倉 基弘、 山本 恵亮
– ドーパミン中毒(新潮新書) / アンナ・レンブケ
– 面白法人が考える上場の話: 面白法人カヤック社長日記 / 柳澤 大輔
– 全体主義の克服 (集英社新書) / マルクス・ガブリエル、中島 隆博
– わが投資術 市場は誰に微笑むか / 清原 達郎
– 夫のトリセツ (講談社+α新書) / 黒川 伊保子
– ボトルの中には夢がある〜カリフォルニア・ワインの真実〜 / 中川 誠一郎
– 資本主義の〈その先〉へ / 大澤 真幸
– 「人の器」を測るとはどういうことか 成人発達理論における実践的測定手法 / オットー・ラスキー
– 「働き手不足1100万人」の衝撃――2040年の日本が直面する危機と“希望” / 古屋星斗、リクルートワークス研究所
– 運は遺伝する 行動遺伝学が教える「成功法則」 (NHK出版新書) / 橘 玲、安藤 寿康
– フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器 (角川新書) / 一田 和樹
– テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想 (文春新書) / 橘 玲
– 2040年の日本 (幻冬舎新書) / 野口 悠紀雄
– 難病の子どもと家族が教えてくれたこと / 中嶋 弓子
– 企業変身願望 / 横山 禎徳
– 東大教授(新潮新書) / 沖 大幹
– エリ・ヴィーゼルの教室から:世界と本と自分の読み方を学ぶ / アリエル・バーガー
– マッキンゼー合従連衡戦略 (BEST SOLUTION) / 横山 禎徳、本田 桂子
– 豊かなる衰退と日本の戦略: 新しい経済をどうつくるか / 横山 禎徳
– 成長創出革命: 利益を産み出すメカニズムを変える / 横山 禎徳
– 3原則 働き方を自分らしくデザインする / 山梨 広一
– 目的思考 / 山梨 広一
– マッキンゼーで25年にわたって膨大な仕事をしてわかった いい努力 / 山梨 広一
– 世界一ポップな国際ニュースの授業 (文春新書) / 藤原 帰一、石田 衣良
– プロヴォカティブ・シンキング ―面白がる思考 / 山梨 広一
– 世界は贈与でできている――資本主義の「すきま」を埋める倫理学 / 近内 悠太
– 富山は日本のスウェーデン 変革する保守王国の謎を解く (集英社新書) / 井手 英策
– 世界は経営でできている (講談社現代新書) / 岩尾 俊兵
– タングル / 真山 仁
– 武器としての決断思考 (星海社 e-SHINSHO) / 瀧本 哲史
– エブリシング・バブル 終わりと始まり――地政学とマネーの未来2024-2025 / エミン・ユルマズ
– 覚悟の論理 / 石丸 伸二
– キングダム 68 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL) / 原 泰久
– キングダム 69 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL) / 原 泰久
– キングダム 70 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL) / 原 泰久
– キングダム 71 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL) / 原 泰久
– キングダム 72 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL) / 原 泰久
– 神々の沈黙: 意識の誕生と文明の興亡 / ジュリアン・ジェインズ
– 縁と善の好循環 / 北尾 吉孝
– 希望のつくり方 (岩波新書) / 玄田 有史
– Love the Problem 問題に恋をしよう ユニコーン起業家の思考法 / ユリ・レヴィーン
– なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?―小さな力で大きく動かす!システム思考の上手な使い方 / 枝廣 淳子、小田 理一郎
– 10倍成長 2倍より10倍が簡単だ / ダン・サリヴァン、ベンジャミン・ハーディ
– 観光大国スペインに見る、オーバーツーリズムの現在と未来 (NEXTRAVELER BOOKS) / 高城 剛
– 大型商談を成約に導く「SPIN」営業術 / ニール・ラッカム
– 意識の脳科学 「デジタル不老不死」の扉を開く (講談社現代新書 2747) / 渡辺 正峰
– 論点を研ぐ 戦略コンサルタントが明かす「問題解決」の実際 / 則武 譲二
– 教育の超・人類史~サピエンス登場から未来のシナリオまで / ジャック・アタリ
– 「18歳選挙権」で社会はどう変わるか (集英社新書) / 林 大介
– 美食の教養――世界一の美食家が知っていること / 浜田 岳文
– キングダム 73 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL) / 原 泰久
– 有と無: 見え方の違いで対立する二つの世界観 / 細谷 功
– 生きがいについて (神谷美恵子コレクション) / 神谷 美恵子
– 東大医学部在学中に司法試験も一発合格した僕のやっている シンプルな勉強法 / 河野 玄斗
– それでも、対話をはじめよう――対立する人たちと共に問題に取り組み、 未来をつくりだす方法 / アダム・カヘン
– 共に変容するファシリテーション――5つの在り方で場を見極め、10の行動で流れを促す / アダム・カヘン
– 東大教授が教える独学勉強法 (草思社文庫) / 柳川 範之
– スマホより読書 本屋を守れ (PHP文庫) / 藤原 正彦
– 投資される経営売買される経営 / 中神 康議
– 結局、人生はアウトプットで決まる 自分の価値を最大化する武器としての勉強術 / 中島 聡
– 読みたいことを、書けばいい。 / 田中 泰延
– 礼儀正しく、的確に伝える 敬語の英語 / デイビッド・セイン
– デジタル社会の罠 生成AIは日本をどう変えるか / 西垣 通
– 超デジタル世界 DX,メタバースのゆくえ (岩波新書) / 西垣 通
– 生命と機械をつなぐ知 / 西垣 通
– 新 基礎情報学 ―機械をこえる生命 / 西垣 通
– 僕らはそれに抵抗できない / アダム・オルター
– ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること / ニコラス・G・カー
– スマホ脳(新潮新書) 『スマホ脳』シリーズ / 榊 浩平、川島 隆太
– 北欧こじらせ日記 移住決定編 / 週末北欧部 chika
– デジタル生存競争 / ダグラス・ラシュコフ
– 呪術廻戦 26 (ジャンプコミックスDIGITAL) / 芥見 下々
– 呪術廻戦 27 (ジャンプコミックスDIGITAL) / 芥見 下々
– スマホはどこまで脳を壊すか (朝日新書) / 榊 浩平、川島 隆太
– 人生を変えるモーニングメソッド / ハル・エルロッド
– 情報哲学入門 (講談社選書メチエ 793) / 北野 圭介
– 世界と比べてわかる 日本の貧困のリアル (PHP文庫) / 石井 光太
– 本当の貧困の話をしよう 未来を変える方程式 (文春文庫 い 73-3) / 石井 光太
– 手の治癒力 / 山口 創
– 学校の枠をはずした: 東京大学「異才発掘プロジェクト」の実験、 凸凹な子どもたちへの50のミッション / 東京大学先端科学技術研究センター中邑研究室
– 最新改訂増補版 医者も知らないホルモン・バランス / ジョン・R・リー
– 人は死なない ある臨床医による摂理と霊性をめぐる思索 / 矢作 直樹
– ユーザーファースト 穐田誉輝とくふうカンパニー――食べログ、クックパッドを育てた男 / 野地 秩嘉
– 今を生きる思想 西田幾多郎 分断された世界を乗り越える (講談社現代新書100) / 櫻井 歓
– 神谷美恵子日記 (角川文庫) / 神谷 美恵子
– 与謝野晶子 愛と理性の言葉 (エッセンシャル版ディスカヴァークラシック文庫シリーズ) / 与謝野 晶子
– 一番わかりやすい はじめての算命学 / 有山 茜
– アットコスメのつぶれない話――困難を乗り越え成長を続けるベンチャー経営の要諦 / 吉松 徹郎
– 昭和の品格 クラシックホテルの秘密 / 山口 由美
– 百年の品格 クラシックホテルの歩き方 / 山口 由美
– 起源と根源: カフカ,ベンヤミン,ハイデガー (ポイエーシス叢書 1) / 小林 康夫
– 日本語の森を歩いて (講談社現代新書) / F. ドルヌ
– 郷愁の時を訪ねて クラシックホテルの物語 (MG BOOKS) / 中村 嘉人
– 新装版 知命と立命 (安岡正篤人間学講話) / 安岡 正篤
– 「私」という男の生涯 (幻冬舎文庫) / 石原 慎太郎
– 餓狼伝 1〜21巻 / 板垣 恵介、夢枕 獏
– 資本主義が人類最高の発明である:グローバル化と自由市場が私たちを救う理由 / ヨハン・ノルベリ
– 問いの編集力 思考の「はじまり」を探究する / 安藤 昭子
– 問いのデザイン: 創造的対話のファシリテーション / 安斎 勇樹、塩瀬 隆之
– 技術革新と不平等の1000年史 上 / ダロン・アセモグル、サイモン・ジョンソン
– 吉田松陰 留魂録 (全訳注) (講談社学術文庫) / 古川 薫
– 成長を支援するということ――深いつながりを築き、「ありたい姿」から変化を生むコーチングの原則 / リチャード・ボヤツィス、メルヴィン・L・スミス、エレン・ヴァン・オーステン
– すべては1人から始まる――ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力 / トム・ニクソン、山田裕嗣、青野英明
– 荻野吟子: 日本で初めての女性医師 (伝記を読もう 7) / 加藤 純子、高田 美穂子
– 塙保己一 (人物叢書 新装版) / 太田 善麿
– バカと前向きに付き合う / 福永 活也
– Swift―グローバル金融ネットワークの全貌 / 中島 真志
– イラストと読む 【現代語訳】ポツダム宣言 / 田中 等
– 番狂わせの起業法 / 金谷 元気、akippa
– 世界遺産のひみつ (イースト新書Q) / 宮澤 光
– 実践 自分で調べる技術 (岩波新書 新赤版 1853) / 宮内 泰介、上田 昌文
– ザ・ノース・フェイスの創業者はなぜ会社を売ってパタゴニアに100万エーカーの荒野を買ったのか? ダグ・トンプキンスの冒険人生 / ジョナサン・フランクリン
– ポツダム宣言」を読んだことがありますか? / 共同通信社出版センター
– 科学的根拠(エビデンス)で子育て 教育経済学の最前線 / 中室 牧子
– 哲学と宗教全史 / 出口 治明
– 西洋の敗北 日本と世界に何が起きるのか / エマニュエル・トッド
– ベンチャー・キャピタリスト 世界を動かす最強の「キングメーカー」たち (NewsPicksパブリッシング) / 後藤 直義、フィル・ウィックハム
– もし世界が1つのクラスだったら 【2冊合本版】 / 大橋 弘祐、竹 流
– エヌビディア 半導体の覇者が作り出す2040年の世界 / 津田 建二
– トランプの帰還 / 饗庭 浩明
– その仕事、AIエージェントがやっておきました。 ――ChatGPTの次に来る自律型AI革命 / 西見 公宏
– 人生100年時代のお金の不安がなくなる話 (SB新書) / 竹中 平蔵、出口 治明
– Read Write Own シリコンバレートップクラスVCが語るインターネットの次の激戦区 / クリス・ディクソン
– キングダム 74 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL) / 原 泰久
– 巨怪伝: 正力松太郎と影武者たちの一世紀 / 佐野 眞一
– 生成AIパスポート公式テキスト 第3版 / 一般社団法人生成AI活用普及協会
– 競争優位の終焉: 市場の変化に合わせて、戦略を動かし続ける / リタ・マグレイス

選書と軽く感想

1冊目:世界と比べてわかる 日本の貧困のリアル

  • 著者:石井 光太
  • 出版社:PHP文庫

この著書を一言で言えば、
「貧困」という言葉がもつ漠然とした我々の印象をアップデートしてくれる書籍である。

本著は途上国と日本の「貧困」を比較を通して展開されていく。
東京または東京近郊に住み、東京で働いている人からすると、当事者意識を持ちにくいテーマもあるのだが毎回具体的な日本でのエピソードが付け加えられているので読みやすい。著者の熱心な取材の賜物なのか、または、筆力なのか、門外漢ながらも読み進めていくなかで少しずつ貧困がもたらす様々な周辺現象を知るなかで、「貧困」というものへの距離が縮まってくる。

例えば、第一章は「住居」がテーマなのだが、住宅の狭さ+家族関係=家族の崩壊。というシンプルな公式を著者は提示し、狭い家で関係が崩れるとどのような悪循環に突入し、その悪循環の中でどのような現象が起きるのかを示している。

また、第二章は「路上生活」がテーマなのだが、ホームレス者の障害・精神疾患の率が高いことが示されている。障害があるからホームレスになるケースもあれば、ホームレスになったから障害を持つこともある。また、ホームレスで手取り10万円以下で生活するよりも刑務所での生活のほうが豊かであることから、あえて再犯を繰り返す層の存在などについても言及がされている。そして、受刑者の4人に1人は知的障害者であるというデータも改めて考えさせられる。

そのようなテーマが第8章まで続くという構成だ。

この書籍に「だから何をしなければいけない」は無い。
あくまでも貧困にまつわる多様な事実と向き合う書籍であり、この事実からどのような問題意識を感じ、関与していくのか。それが問われている書籍である。

「まだまだ相対的に豊かな日本という国で言われている貧困とは何なのか?」
私自身もその問いを握りしめて本書を読んだ。

近い問いを抱えている人は手にとってみても良いかもしれない。

 
 
 

2冊目:タングル

  • 著者:真山 仁
  • 出版社:小学館

この著書を一言で言えば、
企業買収の世界を舞台にして、ドラマ、映画化もされた『ハゲタカ』の著者でもある真山さんが「量子コンピューター」を題材にした経済小説である。

もう少し具体的にいうと、
東京大学工学部に、ノーベル物理学賞に一番近い人物と称される、古澤明教授という方がいる。この本は、その古澤教授がモデルとなっている「量子コンピューター × シンガポール 」をテーマにした小説である。(なぜシンガポールが舞台なのかは巻末に記されている。)

ハゲタカを読んだり、見たりした方ならば鷲津というキャラクターを覚えているだろうか。なんとこのタングルの中にも鷲津が出てくるというハゲタカファンならば心踊る展開がある。
(ガチファンの人はそこに期待しすぎるとちょっとガクッとするかもしれませんのでほどほどに)

さて、私は、実際に古澤教授の光量子コンピューターの講義を受けたことがあり、先生の講義の中で、タングルという小説を知ることになった。(余談だが、ありがたいことに著書の真山さんとも食事をさせて頂いた機会が過去にある)。

先生の講義はなかなか強烈だ。光量子コンピューターがもつポテンシャルは凄まじく、先生の講義を受けていると、もうそこまで来ている世界であることを感じる。先生は、現在の世界のAIを牽引するN社の発展が地球を滅ぼすと考えている。エネルギーを使いすぎるからだ。それはこのタングルという小説の中でも挙げられているテーマでもある。

そして、古澤先生がすごいのが自らスタートアップ を興しこの課題に対峙している点である。(ユニコーン候補だとのことだがここでは詳細は割愛する)

ちなみに、当然ながら先生の著書もあるので、ぜひこちらもおすすめしたい。『光の量子コンピューター』2019年での著書だが、ぜひ、読んでみると良い。

素人の私には、わかる範囲でしか分からない(そりゃそうなのだが)という感じだが、古澤先生を知る上でも一度わかる範囲で読んでみるのも良いだろう。

この2冊を読んでおけば、量子コンピューターへの当事者意識が一段階ぐっと上がるのではないかと思うので、この2冊はおすすめしておきたい。

※ ちなみに、タングルとは、物理学においては、二つのビットが同時に起きる状態を指す。

 
 
 

3冊目:東大教授(新潮新書)

  • 著者:沖 大幹
  • 出版社:新潮社

この著書を一言で言えば、現役の東大教授が、東大教授という仕事は一体どんなものなのか?どんな日常なのか?どんな悩みを抱えているのか?そもそも東京大学の収支はどうなっているか?定量から定性まで、幅広く、且つ、赤裸々に記載しているかなり面白い書籍である。

2014年に書かれた書籍なので、10年が経ち中身もだいぶ変わっている部分があるのかもしれないので、そこはご了承を。

著者の沖 大幹先生は東京大学工学部の教授で水のノーベル賞とも言われる「ストックホルム水大賞」を受賞された国内の第一人者の方である。

そんな工学部の先生がなぜこのような本を書くのかというのも面白いのだが、それはぜひ著書を読んでみてほしい。日本最高峰の大学への解像度がぐーっと上がり、そして、アカデミアの世界も少しばかり身近に感じることになるのではないだろうか。

余談だが、私は沖先生に直接「東大教授を読みました。」と声をかけたことがある。すると「え、読んだ?あれ面白いでしょう」と満面の笑顔で仰っていたのが非常に印象に残っている。

 
 
 

4冊目:スマホより読書 本屋を守れ

  • 著者:藤原 正彦
  • 出版社:PHP研究所

この著書を一言で言えば、
国家の品格』という200万部のベストセラーを生み出した藤原正彦氏の読書論にして、教育論である。

日本から本屋が減っているということをよく耳にするようになってきた。耳にするということは、「このままではいけない!」と思っている人たちの発信が増え、メディアがそれに共鳴する形で発信を増強しているからなのだろう。

本屋を守ることがどこまで本当に必要なのかは私にはまだ分からないが、読書でしか掴み取ることができない塊(かたまり)のようなものが確かに存在することは強く感じる。そして、私はそこで掴みとった塊によって人生が変わったという自覚がある。

本屋を守ることが、その体験を守ることであるならば、本屋の減少に対して、自分も傍観者でいることはできない。

本著を読んでいると、ずいぶん極論だなぁという感覚を持つが、あくまでも言葉が強いだけで、論理の骨子としては、そうだなぁと。中途半端な言葉のまやかしで装飾されていない分、著者のメッセージが伝わりやすい。

改めてになるが、著者の藤原正彦氏は『国家の品格』で200万部を超える大ベストセラーを生み出した方であり、数学者の立場でありながら、「論理より情緒」・「英語より国語」・「民主主義より武士道」と説いている。

本著でも『自ら本に手を伸ばす言葉を育てる』これが教育のゴールだとしている。

著者は、日本の古来の精神である、武士道精神から遡り、そして、今現在、もっともその読書の時間を奪っている存在としてのスマホであるというのが著者の問題設定だ。

どんな方におすすめか?

幅広くおすすめではあるが、やはり本著の正体が、読書論という名の教育論である限りは、子を持つ親御さん世代がメインの対象だろうか。

スマホはあくまでもツールだとするならば、ツールを責めても何も始まらない。とはいえ、子どもを持つ親からすれば、具体的にはどこまでスマホを使わせるべか・・・・。子どもとスマホの距離をいつか考えないといけない、または今考えている最中だという人にとって、聞きかじった話のつなぎ合わせを、もう一段階深いところから論理を構築していく起点になりえる書籍かもしれない。

 
 
 

5冊目:新 基礎情報学 ―機械をこえる生命

  • 著者:西垣 通
  • 出版社:NTT出版

この著書を一言で言えば、
情報学者であり、東大名誉教授の西垣先生が、かのユヴァル・ノア・ハラリホモデウスの世界観に対して真正面から応答している骨太な書籍である。

私はこの書籍に出会うまで「西垣情報学理論」なる学説、理論体系があることを全く知らなかった。そして、こんな考え方を突き詰めている先生がいるんだなぁ〜ということに新鮮な衝撃を感じた。

著者はハラリが示す暗い終末論。近未来。それらに対して、ハラリ自身は代替案を出していないと喝破する。

本著は、ホモデウスにはその選択肢のみが示されているが、ハラリの願望を引き受けて別の選択肢を模索し、具体的なアプローチを提示するという試みをしている。

そもそも、ハラリの主張は基礎情報学とは真っ向から食い違うのだそうだ。

根本的に異なるのは、データ至上主義の弱点は、意味は自律的な生物が生きていくために生み出され、生命情報を記号化し、社会情報になることで交換され、ものがたりになるという点だそうだ。

他律的な存在のAIが物語(ナラティブ)を理解できるのか?ハラリのデータ至上主義の最大の弱点は、コンピューターは意味が捨象された機会情報つまりデータに限られる点にある。

AIの自然言語処理では意味解析は行われているが、AIが実行する文章の意味解析は、文章の意味内容のイメージから選ぶのではなく、単語の修飾関係を統計から選ぶ。カーツワイル、ボストロンにせよ、大半のトランスヒューマニストとはコンピューターが意味を扱えないことを正面から考察しないので、たちまち議論は飛躍し、迷走し、説得力を失う。

ルチアーノ・フロリディというオックスフォード大学のフェロー、情報倫理の哲学者が『第四の革命』という本を出している。曰く、情報の意味解釈はありえないとのことだ。

現在の技術は意味論に立ち入れない。意味を解釈できない。解釈されていないデータのみを扱っている。どれほど処理されても、解釈されない。我々人類が、物語という、共同主観的な世界に生きているのは確かにハラリが言うところだと著者も同意している。しかしながら、意味を処理できないICTが中心的な役割を果たす超歴史時代(人類史を超越した時代)の有り様は一体いかなるものなのか?普通に考えれば、ICTの意味処理が不可能ならばデータ至上主義など実現できないではないか。

コンピューターが意味を捉えられなくてもトランスヒューマニズムは進むのか?という問いに日本の情報学の第一人者が正面から持論を展開する非常に深さのある内容だと私は感じた。

加速しつづける加速主義に対して、単に直感的に、好む・好まないではなく、論理的な批評を自分の中に構築したい人は一度手にとってみられると良いのではないだろうか。

私も、読み込めたとは口が裂けても言えないのだが、それでも充分に新しい視点を獲得することが出来たとてもおもしろい書籍だった。

※ 少し調べてみると、西垣情報学は世界的な支持を得られていないことから、極めて傍流の論理体系であるという批判もあるようである。(いつか専門の方と話をさせてもらいたい)

 
 
 

最後に

ということで、今回は上記5冊でした。

何年か前から思い始めていたのですが、2024年の年末から、今現在に至るまで読書に対してのスタンスを変えることにしました。今まであえて深入りしていなかった、文学・古典・哲学・思想史等の名著に対して、効率度外視で向き合う時間を増やしているのです。

無学な自分ではさっと読み流すことも出来ないし、仮になんとなく読み流せたとしても、それでは大切なところがまったく掴めないままになるという、そんな一筋縄ではいかないカテゴリです。

もちろん、効率度外視と言っても今の自分の働き方では限度があるので、時間だけは区切って、限られた時間の中で極力集中するスタイルにしている。これがまた全然ページが進まない。。。ただし、ページの進みが悪い分だけ、深いところに行けている不思議な高揚感もある。知識が横に増えるのではなく、深まる方向に行く感覚とでも言いましょうか。

また、そんなスタイルチェンジもあったので、Kindleだとどうも齧りつきにくく、必然的に紙の書籍を買う比率があがってしまいました。

どういうわけか、紙の本同士のほうが繋がりを掴みやすく「あれ、もしかして、今あの本読んだら、違う解釈になるかも」という感じで、過去の書籍を同時に開きながら並行するように読む機会も増えてきた今日この頃です。

選書の中にも挙げた藤原正彦先生ではないが、本屋が大幅に減少しているという件は近頃メディアでもよく目にするのですが、はたして時代の流れによる単なる現象であって、実はある程度成り行きで減っていっても問題がないものなのか、それとも図書館の発達によって本屋自体が減っていても読書文化は守られいるのか、それとも「本屋を減らさない」ということが本当に解決すべき重要課題なのか。日本における「本屋」という存在が果たすべき役割は何なのか。

本屋のあり方を再定義し、例えば会員制の読書スタンドのような形で社会に溶け込ませることはできないだろうか?

もしこれが解決すべき課題であるならば、自分にも何かできることがあるかもしれない。未来志向で考えてみたいと思っています。

ということで、またお会いしましょう。

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