取締役の外部登用について考えたこと

2019.06.28 お知らせ, コラム
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はじめに

あなたが勤めている会社に、突如社外から役員として招かれ、自分の上司になったとしたらどう思うでしょうか?

大企業ならば『ふ〜ん。いつものことだな。』でしょうか。

50名〜100名程度のスタートアップならば『え!?マジか誰だ誰だ??』でしょうか。

500名前後くらいのベンチャー企業だとその中間くらいの反応でしょうか??

また、上記のように企業規模の軸だけではなく、

どのような企業文化なのか、という企業文化の軸で見た場合でも、その反応は異なるかもしれません。

例えば、今まで役員はそこまで代わってこなかった。

または、社内からの昇進が当たり前だと思われている企業文化の場合は、規模や歴史に関係なく役員が社外から登用されることに対して強い反応が出るかもしれません。

当然、経営トップはどのような反応が一般的に出やすいのか、そして、自分達のケースでは一体どのようなメリットやデメリットが潜在的に存在するかは一通り把握した上で判断をすることになります。

今回は当社のケースを題材に、経営者から見る取締役の外部登用について私が経験し、考えたことをまとめてみることにします。

(ブログの目的はいくつか定義していますが、詳しくはこちらをご覧ください)

本題

当社は、この約2年間で意図的に役員体制を大きく変化させてきました。

2017年(2年前):5名 →  2019年(現在):9名

この役員体制強化プロジェクトを通じて、参画してくれた役員メンバーも1年以上が経過し、ある程度振り返ることが出来るタイミングかと思い、簡単にまとめることにしました。

当社は創業以来12年間、自己資本の経営をしてきた影響もあってか、役員構成に大きな変化をつける絶対的な必要性がありませんでした。(別に外部資本が入っていたとしても一概にそうではないと思いますが)

創業2期目からのメンバーで、10年近く、役員は構成されていました。

もちろん経営チーム(ボードチーム)の対象範囲が拡張してきた変遷はあります。

創業期は1−2名で決断 → 役員メンバーが加わり3〜5名のボードチームへ → 役員ではない幹部メンバー(MGR上位層)が加わり、

更に大きなボードチームへ移行していったという具合です。

その形でも、10年近く特に大きな「分かりやすい問題」はなく、ワークしていたのです。

しかし、今から約2年前、当社が実現したい企業作りからバックキャストしていくと、経営チームの抜本的な強化を、適切なステップを踏みつつ実現していく必要があると判断しました。

正確に言うと、全て逆算からの判断というほど格好の良い話ではなく、

組織と事業の規模拡大にも伴い、『意思決定精度の低下(感)』を打破する為にかける時間が少しずつ長くなり、

結果的に『意思決定速度の遅延(感)』は小さなシグナルとして様々なケースで顕在化の顔を何度も覗かせていた頃ではありました。

そんな背景を機に、CXO人材の外部登用を積極的に行いはじめたのが、2年ほど前からでした。

そんな中、出会うことが出来た1人が、現在当社の取締役COOをしている田口でした。

以下に、当社取締役COOの田口をケースに、彼がもたらしてくれた『違い』や『学び』について簡単に書いてみたいと思います。

構成として以下6つに分けて書いていきます。

  •    探し方(出会い方)
  •    面接時の感想(私の感想)
  •    参画時のスタンス
  •    関係資産(信頼)の構築
  •    まとめ
  •    最後に

探し方(出会い方)

結論としては、ただのラッキーな出会いでした。

という一言に尽きますが、もう少し、出会いの詳細について書いてみようと思います。

役員クラス、または、CXOクラスのようなエグゼクティブの採用は、1人入れば会社の景色が変わり得るものなので、焦りすぎず・腰を据えて採用を進めることにしました。

エグゼクティブ採用は本当に長くて辛い道のりです。

基本的には、採用できない確率の方が高い戦いだからです。

確率が低くなるのは、こちらが選び抜きたいし、相手もいくらでも選べてしまう為です。

合否で一喜一憂しすぎていると、関係者が疲れてきます。

一方で、お見送り慣れや、負け慣れてしまって、口説く力が弱くなっていくのにも注意が必要です。

ぶれない気持ちで望む必要があります。

今回は、過去お取引実績の無いエージェントからの紹介でした。

取締役の田口側としては、前職で重責を担いながら長い期間チャレンジをしてきており、そこに一定の目処をつけてからの次のチャレンジということで、あえて手間をかけてでも、バイアスを極力減らし、幅広く会社を探してみようと思っていたようでした。

直接トップからお声がけを頂いた企業も多かったようですが、上記の背景もあり、面識もなかった当社とも接点を持つことになりました。

面接時の感想(私の感想)

『最初から役員で!』という前提で会ったわけではなかったのですが、面談や面接を重ねていく中で、徐々にあるべき役職に帰結をしていきました。
私以外の役員とも会ってもらいましたが、面談を終えたある役員と私との会話で

『10年間の面接・面談史上で最も良い方かもしれない。これ以上は面接とかでは無理。これでもし全然活躍して頂けないような人だったら面接というフォーマットの限界がそこにあったというだけ。』

という会話をしたのを昨日のことのように覚えています。

参画時のスタンス

個人的には、参画の仕方にその人の真の実力が現れるのではないかと思います。

特に役員クラスの人間の場合、参画方法に対する秀逸な哲学や解釈が欲しいところです。

具体的にはどういうことか?

当時、既に社員が300名ほどいる状態の中で、幹部メンバーの登用というのは私としては中々神経を使うものです。

特に当社の場合、幹部人材の外部登用の免疫もほとんど持ち合わせていない状態だったので、尚更でした。

そんな中、私たちの文化やキャラクターをみながら、田口自ら『とにかく誰も何も否定をしない』という方針を決め、徹底してくれました。

一般的に、役員クラスはもちろん、幹部人材を登用をする際に、入社後しばらくの間は『コミュニケーションの量』を担保することを必須状況にする会社は少なくないと思います。

具体的には、週1回、1on1を入れる等々の工夫です。

もちろんこれも非常に大事です。

コミュニケーションの量・頻度が入社後から半年くらいは持ち続けないとロクなことにならない話は良く耳にします。

特に、専門性が高い役員を招いたときはジョインして間もなく、大きな裁量権をトップから渡されやすいものです。

それは、期待されているのだから極めて自然なことです。

ただ、とにかくその人が本当の意味でフィットするまでは、サポートが必要なのです。

慣れるまで』のサポートでは決してなく、高い結果が出せるだけの『関係資産』の構築ができる状態までのサポートこそがサポート範囲の本質なのでしょう。

ジョインをした役員も自分の期待は分かっているので、ついつい『早期での結果創出』や『今までいた人とは違うぞ感』をどうしても出したくなるものです。

つまり、(善意と意欲に満ちた)アピール期です。そうやってプレゼンスを出すことも時には大事です。

自分が管轄するメンバーに対して、一定は、魅せるという行為も重要ではあります。

しかし、本当の意味での高い結果が出せるだけの『関係資産構築』とセットでの成果であることを経営者は臨んでいるわけです。

そういう複眼的な視点で解釈ができる役員クラスの人がジョインしてくれると本当に会社は変わります。

関係資産(信頼)の構築

田口の場合、関係資産の重要性をしっかりと理解した中で、

自ら関係資産の構築を丁寧に、着実に進めながら、不要なアピール等一切なく、常に本質的な仕事の進め方、コミットメントの高い仕事の進め方を通じて、私も含めた既存の役員陣や、管掌領域のキーマン達からのオーガニックな信頼を強固のものにしていきました。

とにかく時間軸の捉え方が秀逸でした。

私は、早く慣れていただこうと思って、関係資産の構築サポートを急いでしまいがちだったのですが、田口は極めて冷静であり、人工的な信頼関係ではない、本物の関係資産の構築を果たしていきました。

私は取締役COOの田口のジョインを通じて、幹部人材がジョインすることの意味やその作法を学び直すことができました。

そして、その派生として、中途社員がジョインする際の本当の『配慮』や『サポート』の仕方もアップデートされた感覚がありました。

とにかくこんなに自分も学べたのは数年振りだなぁという感覚になりました。

まとめ
私は今まで『タイトル(役職)を要求する人材には要注意』という基本スタンスを持っていましたが、これは、ケースバイケースだと捉え直すことにしました。

その対象者が本物の場合はタイトルもセットで迎え入れるべきであり、特別なルールを設けるのではなく、原則を基にしながらも柔軟であるべきだと考えています。

とにかく参画人材のマチュアさが重要です。(改革マインドが全面に出ている人材は意欲は最高だが空回りするリスクが高いです)

『改革者』として過去を強く否定しながら旗を振ることで集められる求心力はもの凄いパワーを持ちます。ただし、その救世主効果は刹那的である事が多いものです。

そんなありきたりとも思えるような話も、冷静に自身の過去の経営経験を振り返ってみると、何かしらの改革が必要とされている時には、『短期的に失うものが多くても、中長期でみれば伴うべき痛みだ!』という楽観的で自己正当化バイアスにまみれた解釈をしてきたように思います。

仮に今までは運良く結果オーライだったとしても、その程度の解釈レベルではボロがでるのは時間の問題だったでしょう。

もちろん、仮に対象組織がターンアラウンド期であり、改革者が期間限定の役割であったり、既存の組織に流れる関係資産そのものが負債になっている場合は、話が異なるのかもしれません。

まさに『ぶっ壊さないといけないケース』です。

しかしながら、このぶっ壊さないと行けないケースって、世間一般に言われているほど本当に多くあるのでしょうか?という気もしますがこの辺りは今後解釈を深めていきたい所です。

会社にある既存の良さを活かしながらも、変えるべき要所を見極めつつ、変革をしていくという手法が、机上の空論ではなく、レベルの高い人材なら実現し得るものだということを間近にみることができ、経営者として私自身の視界を広げてもらうことになりました。

『役員クラスならばそりゃそうだろう』と思う人もいるかもしれませんが、実際はこれを口だけではなく、高度に実現できる人材は一握りなのではないかと思います。

トップである自分が、身近にこれだけ学べる役員がいるというのは経営者としての幸福度が極めて高いと言えるでしょう。

最後に

冒頭に、役員がこの2年で5名→9名に増えた話をしましたが、残る3名は専門執行役員という形でジョインをしてもらっています。

時期をみて、専門執行役員として参画をしてくれた、3人についても触れたいと思います。

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